雑記

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【ブルーバックス】疲労とはなにか【近藤一博 著】

」、執筆中

序章 疲労を科学するには

疲労を客観的に測定する

唾液中のウイルス(HHV-6)の量で疲労を測る

 「疲れるとヘルペスが出る」という現象は、潜伏感染していた単純ヘルペスウイルス1型が、宿主がひどく疲れたときに再活性化して、口唇ヘルペスという発疹をつくることによって起こるのです。p.23

単純ヘルペスウイルス1型...ヒトに感染するヘルペスウイルス(全9種)の一種。一般的にヘルペスウイルスは、子供の頃に感染したあと体内に潜み続ける(潜伏期間)。宿主が疲れた時など何らかの刺激に際して再活性化(増殖)する結果、口唇ヘルペスなどの症状を呈する。

 われわれは、この潜伏しているHHV-6が、残業がしばらく続いた、といった中程度の疲労によって再活性化することを見出しました。再活性化したHHV-6は唾液中に放出されるので、唾液中のHHV-6の量を測定することで、人がどのくらい疲労しているかがわかる可能性があることに気付いたのです。

HHV-6(Human Herpesvirus 6)...ヒトに感染するヘルペスウイルス*1の中で6番目に発見された。ほぼ全ての赤ちゃんに親や兄弟から感染し、突発性発疹を起こした後、体内で一生涯潜伏する。

ヒトを宿主とするヘルペスウイルス*2

第1章 生理的疲労とはなにか

疲労感とは

 過剰な活動によって体の組織に障害が生じているときに、脳にその危険を知らせてくれるのが「疲労感」という感覚です。脳はこの感覚を感じることによって、無意識に活動を低下させます。
 組織が障害されたことを知らされてくれる感覚が「痛み」であることはご存知でしょう。「疲労感」とは、傷害される前にそろそろ危ないということを知らせてくれる感覚である、と考えることもできます。両者はともに「生体アラーム」と呼ばれる信号の一種とされています。

痛みと疲労感は、身体の組織にダメージが及んでいる時に生じる感覚という点で似ている。どこが違うんだろう?
疲労感を生じる要因は何だろう?

疲労感を生じる要因は何だろう

 体内で産生された「炎症性サイトカイン*3」という物質が脳に入って、脳に働きかけることで生じるのです。p.33

炎症性サイトカインが疲労感のもとになると考えられる理由は、

  • 筋肉の運動:筋肉で?炎症性サイトカイン→疲労

  • ウイルス性肝炎:肝臓で炎症性サイトカイン→疲労

  • 動物のウイルス感染モデル

  • 炎症性サイトカインの投与

なお、炎症性サイトカインには複数の分子が含まれていて、主なものでもIL-1β、IL-6、TNFαなどいろいろありますが、どれが疲労感を生じさせるかは、あまりよく分かっていません。その理由は、これらの炎症性サイトカインのどれか一種でも脳や末梢組織に存在すると、他の炎症性サイトカインも誘導されてしまうため、どれが主役なのかを特定することが難しいからです。*4

 

HHV-6と炎症性サイトカインの関係

「HHV-6の再活性化を誘導する因子が、炎症性サイトカイン産生を誘導している」という仮説を立てました。そして、その因子が本当に疲労を誘導できるかを確認しようと考えたのです。p.38

 eIF2α(Eukaryotic Initiation Factor 2α)のリン酸化が、HHV-6の再活性化をバイパス経路を介して誘導することが明らかになっていた。なんのバイパスなのか。
 リン酸化eIL2αは、ISR(Integrated stress response:統合的ストレス応答)を介して、タンパク質合成を抑制(翻訳を抑制)する。このISRのバイパスというわけである。では、なぜタンパク質合成が抑制されるのか。以下のような説明がありました。

 ストレスがかかった状態で無理にタンパク質をつくっても、正しいタンパク質が作れず、変なタンパク質をつくって細胞が死んでしまったり、がんになったりします。ウイルスに感染されている場合は、タンパク質をつくっても細胞がウイルスに乗っ取られているので、ウイルスのタンパク質をつくってしまいます。そのような時には、下手にタンパク質をつくらずに、じっとしている方が得策です。こうした場合に、タンパク質合成をストップするのが統合的ストレス応答、ISRというわけです。p.40

第2章 慢性疲労症候群

 慢性疲労とは、長期的(数ヶ月〜数年)に続く疲労のことである。この「長引く疲労」の他にも、睡眠障害、筋肉痛、関節痛、微熱、首やリンパ節の腫れなどの症状が見られ、慢性疲労症候群と呼ばれている。「筋肉痛」を高頻度で呈するため、正式名称は筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS: Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome)とされている。
 慢性疲労症候群では、HHV-6の再活性化が見られず、かつ脳内で炎症が生じている。そこが短期的な生理的疲労との違いである。原因は明らかになっておらず、ウイルス説などが掲げられているが、実体となるウイルスはまだ分かっていない。強い疲労感および倦怠感を伴う新型コロナ後遺症との類似性から、4章で関係が述べられている。

第3章 うつ病

 WHOの基準ではうつ病の3代症状は「疲労感」「抑うつ気分」「喜びの消失」であると言いましたが、米国精神医学会の診断基準であるDSM-5によると、うつ病と診断するために必須な症状は「抑うつ気分」または「喜びの消失」となっており、「疲労感」が消えてしまっているのです。p.97

うつ病の発症にかかわる分子メカニズム

 マクロファージで潜伏感染しているHHV-6は、潜伏感染遺伝子H6LTからmRNAを発現する。このmRNAは、HHV-6を再活性化する作用を持つIE1タンパク質とIE2タンパク質をコードしているが、uORFの作用でタンパク質酸性が止められている。しかしeIF2αのリン酸化によってuORFの制御が外れると、IE1タンパク質とIE2タンパク質が産生されるようになり、潜伏感染していたHHV-6が再活性化する。p.125

ウイルスの再活性化が脳内炎症を引き起こす細胞分子メカニズム

第4章 新型コロナ後遺症

第5章 ついにすべてがつながった

第6章 人類にとって疲労とはなにか

*1:二本鎖DNAウイルスの一種。直径120~200nmの球状。

*2:https://kotobank.jp/word/単純ヘルペスウイルス-1364035

*3:体内の末梢の組織で生じる小分子。

*4:炎症性サイトカインは血液脳関門を通過しうるし、神経を通って脳に入ることができる。また、血液脳関門でプロスタグランジンに変換されて、脳に入ることもできる。