雑記

面白いと思ったことをまとめます

【ブルーバックス】依存と快感の脳科学 __ドーパミン神経__【「こころ」はいかにして生まれるのか】

はじめに

 昨今、ドーパミン神経はメディアによく取り上げられて有名になっています。ゲームをしている時やスポーツをしているときに「今めっちゃドーパミン出てるわ!」という人を何度も見かけたことがありませんか。特にゲームであれば特別なアイテムをゲットした時だとか、スポーツなら店を決めた時など、おそらくドーパミンはポジティブな興奮時に出ている何かなのだと文脈から察することができます。

 結論から言うと、ドーパミン神経細胞から発される神経伝達物質のひとつであり、報酬予測誤差がプラスであるときに放出が増えます。そして、快楽や依存に関わるとされています。報酬予測誤差というのは、実際もらえた報酬とその予測との差という意味です。

今回はこのドーパミン神経に関する実験と具体的な解剖学的知見を紹介します。

ドーパミン神経の活性と報酬予測誤差

 突然ですがとある実験を紹介します。(「こころ」はいかにして生まれるのか p.173 )それを報酬と予測、それの誤差という概念をもって説明します。(報酬) - (予測) = (誤差)を各実験において計算していきます。数値は任意です。

 実験はシンプルで、サルにランプの点灯を見せた後にジュースを与えるだけです(下の図)。ただし、サルの脳にあるドーパミン神経の活性を測定しておきます。

 まず、緑のランプを点灯した後にジュースを与えると、ドーパミン神経が活性化しました。グラフの線がドーパミン神経の活性を表しています。これは、学習前の応答です。報酬がもらえたので 1、それを予測していなかったので 0 なので、報酬予測誤差は 1 - 0 = 1(活性化) です。

 ランプの点灯を提示した後にジュースを与えることを繰り返すと、サルのドーパミン神経はランプが点灯した時に活性化するようになります(学習後)。ランプが光るとジュースが与えられることを学習したと考えられるため学習と呼んでいます*1。これは、ランプ(刺激)によりジュース(報酬)を期待できるようになったと考えられます。ただ一方で、学習後ではジュースが与えられた時のドーパミン神経の活性化が消失しています。報酬はもらえたので 1、もらえると予測していたので 1、報酬予測誤差は 1 - 1 = 0 (変化なし)です。

 さらに、本来ジュースを与えるはずの時に与えないようにすると、ドーパミン神経の活性は低下します。報酬は 0、もらえると予測していたので 1 なので、報酬予測誤差は 0 - 1 = -1 (活性減少)です。

 今度は青のランプを点灯させた後に*2、やはりジュースを与えるのですが、その確率を50%にしてみます。もう半分の50%は何も与えません。これを繰り返して学習させると、ドーパミン神経は青ランプ点灯時に活性化した後、また緩やかに活性を高めているのが確認されました。予測が不確定なので 0.5 と表現すると、報酬予測誤差は図のようになります。

ドーパミン神経と報酬予測誤差

ドーパミン神経の解剖学的知見

 では、実際の脳内でドーパミン神経はどこにあるのでしょうか。また、どこから入力を受け、どこに出力するのでしょうか。櫻井先生の食欲についての本*3を引用してみる。

 期待していたよりも大きな報酬を得ることを「報酬予測誤差」という。そのことは大脳皮質の前頭前野という部分で判断・認知される。前頭前野は状況を判断する機能があるので、報酬が「期待よりも大きい」と認知できるのだ。そしてその情報は内側前脳束という経路を通って、中脳の腹側被蓋野に送られ、ドーパミン作動性ニューロンを興奮させる。活発になったドーパミン作動性ニューロンは、投射先である側坐核ドーパミンを放出する。その結果、快感を感じるとともに側坐核ニューロンに機能的、構造的な変化が起こり、その「報酬」を得ることにつながった「行動」が強化される。「食欲の科学」p.110

 まず、ドーパミン神経は中脳の腹側被蓋野(VTA:Ventral Tegmental Area)にある。そして、報酬予測誤差は前頭前野で何らかの方法で計算され、そこから情報がVTAに送られる。VTAから出力するのは側坐核とあるが、実際には前頭前野(Prefrontal cortex)などにも出力する。出力の機能に関して、本から以下の文章を引用する。  

 腹側被蓋野ドーパミン作動性ニューロンから前頭前野に分泌されたドーパミンは、「主観的な快感」を増強する。一方、側坐核ドーパミンが分泌されると、「その結果のもとになったの脳が判断した行動」が強化される。(中略)
 ということは、動物や私たちは前頭前野で「主観的な快感」を得たから何かに病みつきになるのではなく、側坐核が快感のもととなったと判断した「行動」が強化されて、その行動に病みつきになるのだ。このように、主体的な快感と行動の強化は別々の経路で起きている。「「こころ」はいかにして生まれるのか p.167 」

 最後の一文はかなり興味深い。

VTAのドーパミン神経の出力

さいごに

多くの疑問が残っている。

  • 大脳皮質で予測誤差が計算されるというが、具体的にどのようになされるのか?予測信号と報酬信号はどこに由来するのか。

  • 側坐核での行動の強化、前頭前野での快感の認知はどのように起こるのか?

主にこの二つの疑問に焦点を当てて今後調べていきたい。また更新予定です。  

*1:学習と繰り返していくうちに、ドーパミンの活性化はどのように変化するのでしょうか?ジュースを与えられた瞬間の活性化が減少し、ランプの点灯時の活性化が増加するのでしょうが、それは緩やかに進行するのでしょうか?それとも一気に進むのでしょうか。また、ランプが点灯された後、どのくらいの時間感覚で活性化するかの学習変化も気になります。

*2:色を変えた理由は、緑のランプの学習による影響を排除するためです。実際、緑ランプで学習させた後に、青ランプを見せてもドーパミン神経の活性変化は起こりません。

*3: