雑記

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【ブルーバックス】恐怖学習の謎 —— 青斑核ニューロン ——【つながる脳科学】

6章 脳と感情をつなげる神経回路

恐怖学習とは

 怖い国語の先生がいたとします。あなたは国語は好きですが、先生は怖いと思っていてあまり好きにはなれません。先生が大きな音をたててドアを明け教室に入ってくると、心臓がバクバクして落ち着きません。これが恐怖学習の一例です。

 ある感覚刺激と強い嫌悪的刺激を連続して、あるいは同時に経験すると、その感覚刺激によって、行動や生理的な反応が変化するようになります。これが恐怖学習です。恐怖学習は、生物の生存にとって重要な機能です。しかし、恐怖記憶に強く支配されると、人間でいう「不安障害」や「うつ」といった精神障害につながる恐れがあります。p.203

 国語の授業は「ある感覚刺激」にあたり、怖い国語の先生は「嫌悪的刺激」にあたります。本来であれば、国語の授業は好ましいものでしたが、怖い先生のおかげで、心臓をバクバクさせるように生理的な反応を変化させました。教室に逃げ場はないので、これが生存にとって重要だとはいえません*1。むしろ国語の授業が嫌になり、鬱につながることもあり得るかもしれません。では、恐怖学習は脳の中でどのように起こっているのでしょうか?

 近年、マウス(やラット)を使った恐怖学習の研究が主になされています。ある何の意味もない音を聞かせて、嫌な電気ショックを与えることで、その音を聴かせるだけでビビらせてやろうという仕組みです。ある音が感覚刺激で、電気ショックが嫌悪的刺激にあたります。ビビらせるというのは、マウスは音を嫌なものだと学習すると、体を強ばらせ動かなくなる(Freeze)ため、それを学習の指標にしようというものです。研究では、どのような神経回路が学習に重要であるのかを調べていきます。その際にはオプトジェネティックス*2や薬理学的手法*3で、特定の神経の活動を操作し、それにより行動がどう変化するかを見ることで研究を進めます。

恐怖学習の神経回路とその謎

 マウスに音を聞かせると、耳に入り、大脳皮質の聴覚野で処理された後、神経を通り扁桃体に至るとされています。より具体的には扁桃体外側核に至ります。一方で、電気ショックを与えると、その刺激も同じく扁桃体の外側核に入ってきます。扁桃体外側核の神経は、扁桃体中心核に神経を送り、結果的にFreezeのような行動の変化を起こすと考えられています。

 学習が成立する前は、聴覚野からの神経シグナルはFreezeを起こしません。これは、聴覚野から扁桃体外側核への神経が作るシナプスの強度が弱いからです。学習が進むとともに、このシナプス強度が強まることが実験的に明らかにされています*4シナプス強度が強まると、聴覚野からの神経だけで、下流の中心核へ情報が伝達するようになり、Freezeを引き起こすと考えられます。

   これを人為的に再現するため、以下のような実験がなされました。そして、不可解な現象が発見されたのです。

 電気ショックを与えずに音を聞かせながら、電気ショックの代わりにオプトジェネティクスでラットの扁桃体を興奮させた*5時も、恐怖学習は完成しませんでした。(厳密には、弱いフリージングは観察されました。)
 しかし、音を聞かせ、かつオプトジェネティクスで扁桃体を活性化させるとき、同時にノルアドレナリン受容体を活性化させるイソプロテレノールで薬理学的に活性化させると、恐怖学習が成立しました。音を聞かせるだけで、ラットは十分長い時間の、フリージングを示したのです。p.215

つまり、恐怖学習を成立させるには、聴覚野からの感覚刺激と電気ショックからの嫌悪刺激だけでなく、ノルアドレナリン性の扁桃体への刺激も必要であることが明らかになったのです。

恐怖学習に必要なノルアドレナリン性入力

 恐怖学習に影響するノルアドレナリン性入力は、青斑核由来であると考えられています。オプトジェネティックスにより、青斑核から扁桃体へ投射するノルアドレナリン神経の活動を抑制すると、恐怖学習が成立しなくなることが実験的に確かめられています。なぜ恐怖学習には青斑核からの入力が必要なのでしょうか?*6

恐怖学習の神経回路

青斑核の活動はどういう状況で高まるのか?

調べています

記憶するべき状況で、ノルアドレナリンが分泌されているのではないか?アテンション

*1:森の中で住む動物であれば、熊のような恐ろしい生物がやってくる状況を記憶するのは重要です。例えば、熊のフンを見て怖いと思いその場から立ち去るのは、生存にとって有利です。

*2:神経にある波長の光を当てて、人為的に興奮(活性化)させる手法です。光で活性化するイオンチャネルなどを遺伝学的に導入し発現させる前準備が必要になります。興奮だけでなく、抑制もできます。

*3:あるタンパク質の受容体に拮抗して、その機能を阻害する薬を使ったりします。オプトジェネティクスと同じく神経を興奮させるためにも使われますが、薬は広範囲に持続的に作用するため、阻害実験に比較的多く使われるイメージです。ただ、以下では興奮のために薬が使われていますが。

*4:理論的にヘブの法則として知られています。

*5:扁桃体の外側核を活性化させたのだと考えられます。電気ショックに由来する扁桃体への神経伝達が、どの神経物質に担われるのか、調べたいと思います。

*6:電気ショックを予測づけるような感覚刺激を単純に記憶させればいいような気がします。