雑記

面白いと思ったことをまとめます

ブルーバックス「オートファジー」読んでみた

今回の本

著者の吉森先生はオートファジー研究の立役者のお一人です。オートファジー研究がどのように進展していったのかを当事者の貴重な観点から説明されていて、研究の辛苦や楽しさが伝わってきます。それでいて難しい遺伝子やタンパク質の話はほとんどないので、ほとんど一気読みしました。

面白かったところや気になったところをまとめていきます。気が向いたら調べ物もするかも。

 

 

 

 

オートファゴソームとは? 特殊なオルガネラ

細胞内で膜構造を持つものをオルガネラと呼ぶ。ミトコンドリアや小胞体、ゴルジ体やリソソームが例としてあげられる。オートファジーで作られる膜構造はオートファゴソームと呼ばれ、これもオルガネラに分類される。

オートファゴーソームが他のオルガネラと異なる大きな点がある。他のオルガネラが常に細胞内に存在しているのに対して、オートファゴソームは常に存在していないという点である。つまり隔離膜として形成され、作られては消えていく。

オートファゴソームは、いったいどこからやって来るのだろうか。p.92

オートファゴソームの元になる隔離膜はミトコンドリアと小胞体の境界部分で形成されるという。Atg5という分子が関わっているらしい。ちなみに三色同時の蛍光顕微鏡で観察したという。

なぜミトコンドリアと小胞体が接触しているところでなければいけないのかなど。まだわからないことがたくさんある。p.106

(当たり前かもだけど)何もないところからぽっと出るよりかは、すでにある膜構造から伸ばした方が造られやすいと思う。でも、ゴルジ体とかでは作られないのだろうか?

ミトコンドリアは小胞体とタンパク質で近接していて、カルシウムイオンや脂質のやりとりをしている。何か関係があるのだろうか。オートファゴソームで囲まれやすいものが、そこに集まりやすいとかなのだろうか。

 

 

選択的オートファジーとは

細菌・ウイルスの除去もオートファジーの機能の一つである。どのように認識されているのだろうか?

これら外からの侵入者はエンドサイトーシス経路で入って来る。つまり、エンドソームの中に隠れているのだが、リソソームまで運ばれる前に毒素などで膜構造を破壊する。この時、エンドソームの内側(元は細胞外に向いていた面)が細胞質に露出する。この膜面にある特異的な物質(N型糖鎖)が認識され、オートファジーに向かうらしい。やはり細胞内に入っても、細胞の外は外なのだと思った。

ここでユビキチンが重要だというらしいが、どんな物質が認識して、ユビキチン化に向かうのか、そこからの流れがよくわからなかった。損傷したミトコンドリアはPRKN, PINK1というタンパク質によってユビキチン化されるらしい(同じ?)。

 

細胞内の分解機構:ユビキチン化との違い

細胞内の分子を分解するしくみは大きく二つあるとされている。オートファジーとユビキチン化である。

タンパク質は酵素によりユビキチン化されると、プロテアソームによって引き伸ばされてアミノ酸に分解される。一方で、オートファジーではタンパク質は膜の中でまとめて分解される。まるでジンベイザメに食べられるかのように丸呑みされる。分解のスケールが違う

また、分解に関して本で面白いことが紹介されていた。

凝集しやすいタンパク質をオートファジーが選択的に分解しているという報告は、私たちの研究以外からも出ている。p.150

ハンチントン病ではポリグルタミンが凝集しやすく、細胞内で蓄積しやすい。アルツハイマー病ではタウやAβが(多分同じ理由で)蓄積しやすい。アルツハイマー病マウスでオートファジーの機能を活発にすると、発症が抑制されるなどの報告があるらしい。p.148で肝変性における例も紹介されている。

 

オートファジーのブレーキ役:ルビコン

ピザなどの高脂肪食を摂り続けていると、肝臓に脂肪が溜まっておかしくなる。脂肪肝などと呼ばれる。この時、肝臓細胞ではオートファジーの機能が低下しているという。どのように?ルビコンと呼ばれるタンパク質がBeclin複合体を形成して、オートファゴソームとリソソームの融合を妨げているという。そうなると分解が進まない。だから肝臓が太る。

ルビコンの名はルビコン川から採られたそうだ。ルビコン川は古代ローマ帝国とその属州を分け隔てる川だった。属州の軍隊がその川を渡る時には装備を解除するように取り決められていた安全を保証する上で重要な川でもあった。ある時、属州の偉い人だったカエサルがいきなりその職を解任された。カエサルは「賽は投げられた」と言い放ち、ルビコン川を渡って群を引き連れてローマに入った。Beclin複合体はルビコンがなければ、オートファジーを促進する。ところがルビコンができると、Beclin複合体はオートファジーを抑制する。そうなると肝臓に脂肪が溜まり、体には悪いのだった。ルビコンは細胞や体にとって、反旗を翻すきっかけとなるタンパク質として名付けられたそうである。

 

ノーベル賞うら話:大隅先生

2016年のノーベル賞授賞式大隅先生は講演でしたちょっとした失敗談が紹介されています。実際に式に参加された吉森さんの視点で書かれていて面白かった。

 

マイトファジーパーキンソン病とオートファジー

神経細胞が何らかの理由で死んでしまい、脳機能が低下する疾患がいくつもある。疾患はまとめて神経変性疾患と呼ばれる。神経変性疾患には細胞内にタンパク質が凝集するという特徴がある

パーキンソン病神経変性疾患の一つであり、特にドーパミン神経が死ぬ病気として知られているドーパミン神経は運動を制御しているため、これが死ぬと運動が制御できなくなり、手足が震えるなどの障害が起こる。1998年、順天堂大学の服部先生らにより、パーキンソン病の責任遺伝子 PRKN が発見された。2004年には PINK1 が発見され、これらはオートファジーに関係することがのちに明らかとなった。

損傷したミトコンドリアはPRKNとPINK1によってユビキチン化されて、オートファジーによって分解されるミトコンドリアのオートファジーだからマイトファジーと呼ぶ。よって、これらの遺伝子が働かないと、損傷したミトコンドリアが蓄積する。損傷したミトコンドリアからは活性酸素が発生する。活性酸素により細胞内の重要な物質が損傷し、やがて細胞は死んでしまうと考えられている。

ここまでは本に紹介されてある。神経細胞がオートファジーが働かないために死ぬのはわかった。でも、なぜドーパミン神経だけなのだろう?*1これらの遺伝子がドーパミン神経特異的に機能しているのだろうか。

 

 

気になること

*1:ドーパミン神経と言っても1種類ではない。サブタイプがあり、AGTR1遺伝子でマーカーされるドーパミン神経がパーキンソン病で死んでいるらしい。その理由は不明としている。(AGTRはアンジオテンシン受容体。)

神経科学:パーキンソン病患者の脳内で選択的に消失するニューロンが見つかった | Nature Neuroscience | Nature Portfolio

*2:膜電位が低下した状態のミトコンドリアのことらしい。

Parkin - 脳科学辞典 ミトコンの膜電位の実態は、電子伝達系によって膜間腔に運ばれた大量のプロトン。つまり、電子伝達系がうまく働かないと電位は下がる。電子伝達系がうまく働かないというのはどういうこと?あと、ミトコンの膜電位が下がると、シトクロムcの放出でアポトーシスが起こると思うけど、マイトファジーとの関係はどうなんだろう?