赤ちゃんはお腹が空くと、目を覚まし泣き出す。ミルクを飲んで満腹になればまたすやすやと眠りだす。これは覚醒(あるいは睡眠)と空腹(あるいは満腹)状態が密接に関係していることを示唆している。では、どのように関係しているのか。
空腹とは血糖値が低下すること
血糖値とは、血中の糖の値である。糖とはグルコースのことであり、細胞の主要なエネルギー源である。だからこそ血糖値が低ければエネルギーが低いことを意味するし、血糖値が高ければエネルギーは高いといえる。
空腹とは、身体の血糖値が低い時につくられる脳の感覚である。ご飯を食べていなければ、血糖値が低く、それを脳が感知して空腹感をつくりだす*1。
では、脳はどのようにして血糖値を測っているのだろうか?
1969年、大村裕博士らは、微小複合電極でラットの視床下部の各部にグルコースを微量投与しながら、単一ニューロンの電気的活動をモニターするという極めて高度な実験を行った。(中略)グルコースによって興奮するニューロン(グルコース受容ニューロン)が腹内側核(満腹中枢)に、またグルコースによって抑制されるニューロン(グルコース感受性ニューロン)が視床下部外側野(摂食中枢)に多く存在することを証明してみせたのである*2。
グルコース濃度を感知し活動を変化させる神経細胞が視床下部にあるらしいことがわかった。
覚醒を司るオレキシン作動性ニューロンはグルコースに反応する
オレキシン作動性ニューロンは視床下部外側野に存在する。そして、大脳皮質をはじめとする脳の広範な部位に投射しオレキシンを分泌し、脳の覚醒状態をつくり出している。動物は覚醒すると行動量が増える。実際にマウスに餌をやらないで置いておくと、本来は寝ているはずの昼間にも餌を求めて動き回るようになる。睡眠時間も減る。一方、オレキシンを遺伝的に作れないマウスはこうした行動を起こさないという。
また、グルコース濃度が低下するとオレキシン作動性ニューロンの活動が増えることがわかっている。逆にグルコース濃度が上昇すると、オレキシン作動性ニューロンの活動が低下することもわかっている*3。
前述したグルコース感受性ニューロンも、グルコース濃度の上昇により活動が低下する。しかも視床下部外側野に存在する点も同じである。調べたところ、オレキシン作動性ニューロンとグルコース感受性ニューロンは同じものであるらしい*4。(完全な一致であるかは不明。一部がオーバーラップしているのかも。)
まとめ
空腹時には血糖値が下がると、視床下部のオレキシン作動性ニューロンの活動が上がる。オレキシン作動性ニューロンは脳を覚醒させるため、空腹時には眠れなくなる。